角川ホラー文庫

2007.08.29

『呪怨 パンデミック』

 大石圭 角川ホラー文庫

住宅街の一角にひっそりと建つ幽霊屋敷として有名な<ある家>。その家に足を踏み入れた者たちは次々と謎の死や失踪を遂げていた。そこではかつて伽椰子(かやこ)という女性が夫に惨殺され、当時6歳だった長男の俊雄も行方不明のままとなっていた。そしていま、またもや少女たちの悪ふざけが、その家に宿った怨念を呼び覚ましてしまう……。おぞましき伽椰子出生の秘密が明らかに!

 大石圭氏によるノベライズ、『呪怨』『呪怨2』に続く三作目です。
 私はホラー系の映像作品は完全に駄目な人なので『呪怨』シリーズの映画がどのようなものなのかは未だにまったく知らないのですが、大石圭氏がノベライズをなさっているというその一点だけのために読み続けて来ました。
 …でもそれももうそろそろやめようかな…って感じ…。

 ある時期までは確かに大石氏の定型文的な文章の書き方は一つの魅力であったのですが、ここまでくるともうさすがにちょっと…食傷気味というか…。

 ストーリーそのものもありがち過ぎる理不尽さのために怖いと思える部分がなく、まあ映像で観ればきっと怖いんだろうなぁと思える程度…?
 作中に登場した伽椰子の日記を読ませてもらえなかったのが一番萎えました。そこが一番面白いところじゃないのかよ…!
 あとラストシーンもよくわからなかった。前の話と絡んでたのかな? もう前の話あんまりよく覚えてない…。

 なんだかさんざんな感想で申し訳なくなるほどです。
 それにしても大石氏は相変わらず料理の描写が抜群に上手だなぁ…ホラー小説なのに読んでるとお腹が空くのは何故だ?

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2006.07.25

『飼育する男』

飼育する男
飼育する男
posted with 簡単リンクくん at 2006. 7.25
大石 圭〔著〕
角川書店 (2006.7)
通常24時間以内に発送します。

昔、昔……。春のある午後、少年は森の中で、日にさらされて色褪せた雑誌が落ちているのを見つけた。何げなくページを開いた瞬間、若い女性の全裸写真が視界に飛び込んで来て、思わず息を飲んだ。少年はまだ7歳か8歳だったけれど、そんな少年でさえ、それが普通のものではないことくらい理解できた。幼い少年にとって、それは目が眩むほどの衝撃だった。そして思った。いつか僕もこんなふうに女の人を、と───。

 大石圭氏です。
 今回の作品は…例えるならば『殺人勤務医』に『湘南人肉医』を少々加えたものを、読んでるところを知らない人に後ろから覗き込まれたら反射的に本を閉じてしまうような官能小説寄りにアレンジした感じ、でしょうか。
 私は大石氏の文章が持つ淡々とした雰囲気や端正な描写が好きなので黙々と読み進められましたが、物語としては…どうなんだろう…。

 子供の頃に監禁調教系の雑誌を読んだ主人公がその影響から、両親の遺産を利用して女性を飼育するための施設を自宅の地下に作り、これはと思った女性を次々に誘拐しそこに幽閉して…うーん、何だか物足りない。何が足りないのかはよくわからないのですが。

 大石氏の作品に頻繁に登場する特徴的な要素は今回も随所に散りばめられていて、作中にそれを発見するのもそろそろ「まちがいさがし」のような行為になりつつあります。
 しかしながらそれでは大石氏にこれまでとはまったく違った小説を期待するのかと問われればそれもまたちょっと違うなーってカンジなワケで…うーん…基本的に大石圭ワールドは大好きなワケですし…。
 このもやもやとした気分を上手く言い表すことが出来ないのが非常にもどかしいのですが一言で言ってしまえば『飼育する男』はどうにも不完全燃焼でした。私にとっては『殺人勤務医』の方がずっと良かったです。

 9月に光文社文庫から長編新作を出されるそうなのでそちらに期待したいと思います。
 それにしても、ホラー的内容がどんな作品であろうと、相変わらず料理の描写が抜群に上手な作家さんなんだなぁ…。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2006.03.07

『獣の夢』

『獣の夢』 中井拓志 角川ホラー文庫

富山県宇尾島市氷上小学校。一九九五年八月。この学校の屋上で衝撃的な事件が起こった。六年生の児童二十三名が日没を待って夏休みの校舎に侵入。ふざけあうなどしているうちに児童の一人がコンクリートに頭部を強打、死亡するという事故が発生。他の児童たちは所持していたナイフで遺体を損壊。その一部を屋上から投下した。───そして九年後……。衝撃の書き下ろし最新作!

 前作『アリス Alice in the right hemisphere』を読んだのが2003年4月だったので約三年ぶりの中井拓志氏です。『アリス Alice in the right hemisphere』は『レフトハンド』寄りの物語でしたが『獣の夢』は『quarter mo@n』寄りのお話です。

 読み始めてすぐに「あれ? このヒトってこんな文章書くヒトだったかな?」ってものすごくひっかかりました。何と言うか、言葉を無造作にぽんぽんと投げ出してゆくような、一歩間違えればすごく乱雑ですごく手抜きなものに思えるような文章。数ページ読んだだけで違和感を覚えるようなそれが不思議に乱雑でも手抜きでもなく、むしろ独特のテンポを持って作品世界の雰囲気にどんどん寄り添ってゆく感覚が新しい。音としても心地良い感じ。ざくざくのガラスの破片の上を歩かされてるような、ただ瓦礫が散らばってるだけの地面じゃなくて、ところによってはダイヤモンドよりも鋭く光るような。読んでることが快感。

 しかしながらあっと言う間に読み終えて作品世界から一歩離れて振り返ってみると、文章とは違う意味でのひっかかりを覚えてしまう。なんだか何一つ解決していないような、それでいて何もかもがあるべきところにおさまっているような、そのくせ終わらないことが終わりであるような…。
 起きてる事件も展開してゆく現象もこう言っては悪いけど結構ありきたりなものばかりなのに、それらを寄せ集めて紡いで語られる物語全体は決してありきたりなものではなく…やっぱり、雰囲気。ありきたりな要素を振り返ってみなければありきたりとは思わせない作者の筆力。やっぱりこの人はすごいなぁ。

 まあ『獣』はともかくそもそも九年前に子ども達が何故バラバラにした死体を屋上から撒き散らさないといけなかったのかが…『花』のかわり…うーん…。エピローグも…うーん…九年前の現場を描写してほしかった気もするけどなぁ…。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2006.02.23

『輪廻』

『輪廻』 大石圭 角川ホラー文庫

昭和45年、群馬県のホテルで起きた大量無差別殺人。法医学教授の大森が自らの家族も含め、宿泊客、従業員ら11人の命を奪った。動機は不明。大森も謎の死を遂げ、警察は狂気の犯行として片付けた。そして35年後の現代。映画監督の松村は、この猟奇事件の映画化に取り組んでいたが……。日本人初、全米ナンバー1を獲得した、清水崇監督・最新作を完全ノベライズ!

 話の展開が非常にスピーディなのでとにかくさくさくっと読めました。
 昭和45年、大森範久がホテル中を走り回って11人の人間を次々に殺してゆく場面の描写には思わず引き込まれ、次がどうなるのか気になってかなり長い時間一気に読み続けてしまいましたが…『輪廻』という作品全体がどうだったかと言うと…ちょっと首を傾げてしまうような流れがあったことは否めないかも…。

 私は小説しか読んでないしホラー映画が大嫌いなので映画の方の『輪廻』を観ることは未来永劫ないと思いますが、『輪廻』で検索して知れる限りの映画版の内容とはやはりちょっと違う部分もあるみたいですね、小説版。
 35歳以下の人間が次々と行方不明に…って説明が小説版にはまったくなくて、中盤終わりぐらいに一気に視点主人公として複数の人物が登場して来るのですが、急に色んな名前が出て来るのでちょっとついて行けない感じを受けました…。
 一人称の視点変更は頻繁にやり過ぎるとお話が細切れになって読者を置いて行ってしまいがち…終盤からラストに向けてはこのこまめな視点変更がいいカンジに物語を盛り上げてくれていたと思うので、大森範久・杉浦渚・木下弥生以外の視点主人公はいっそばっさり切り捨てても良かったのではないかと…中盤終わりが一番ごちゃごちゃとした印象になってたので…。

 それにしても…大森教授の考えてることが最初っから全然おかしいので終始どこか醒めた状態で本を読んでる自分が意識されてイマイチ楽しめなかったなー。
 人間は一度死んでもその魂は滅びずに別の肉体に宿ってまたこの世に戻って来る、という考え方は良いとしても、大多数の人間は生まれ変わった時点で前世の記憶を失ってて別の人間になっちゃってるんだから、そんな転生を証明してみせてもイミがないんじゃないかな…? 前の身体にあったアザとかホクロが残ってればそれだけでも証拠としてOKなの?
 生まれ変わりの子ども達も大きくなったら前世の記憶を忘れていってしまうことは自分で調べた結果としてわかってただろうに。第一、前に生きてたときの記憶が少しでも残る可能性自体がめちゃくちゃ低いのに、殺害人数が少な過ぎ。自分の息子と娘を殺した時点でわたしに出来ることは全部終わったー、みたいな感じで自害しちゃって、結局何がしたかったんだかしたくなかったんだか…。

 ヌードマウスによる実験だって100匹全部が生まれ変わってたワケじゃないのに、これで後は人間による実験だけだとか言われてもちょっと…大森教授はその時点で『狂ってた』『おかしくなってた』ってコトで納得しろってことでしょうか。

 大量殺人事件の被害者の生まれ変わり達が最後に集まって来て、前に殺されたときのように死ぬ理由もまるでわかりませんし…少なくとも生まれ変わりが死ぬ理由はないような…『呪い』ってことで納得すればいいのか…?
 大森範久と大森千里の生まれ変わった35年後の人物が誰なのかはややミスリードがあからさまでしたな…弥生が出て来るのがちょっと早過ぎた気がする。

 実のところ読んでて一番腑に落ちなかった点は刃渡り25センチのナイフ一本で11人もの人間を次々に殺して回るのが実際に可能なのかということなんですが…ミステリ小説じゃないのでそこはスルーするしかないのか…?

 そんなお話でも一気に読ませてしまうのは大石氏の筆力のなせるわざ…なのでしょうか。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2005.08.17

『復讐執行人』

『復讐執行人』 大石圭 角川ホラー文庫

 『湘南人肉医』以降に出版された『4人の食卓』(映画のノベライズ)『死者の体温』(単行本版を既読)『オールド・ボーイ』(ノベライズ)『THE JUON』(ノベライズ)『処刑列車』(単行本版を既読)五冊を飛ばして久々のオリジナル新刊ということで『復讐執行人』を読みました。
 角川のサイトで発売前に見かけたときは『汝の血の海で眠りたい』というタイトルで、読み終えた感じそっちの題名の方が合ってたような気がするんだけど…『復讐執行人』だと他人の復讐を依頼されて代わりにするみたいなニュアンスが感じられるので…。

 ものすごく大雑把にまとめると平凡でありふれているけれども幸せな生活を送っていた主人公がその暮らしをぶち壊しにした謎の男に復讐しようとする話なんですが、これまでの作品と比べるとどうも押しが弱かったです。実は謎の男が主人公の家を襲撃したのにはちゃんとした理由があるのですがその理由も…最後の最後まで伏せておくには弱すぎる、というか明かされても結局主人公には全然わからなかったって言うのが…確かに犯人の哀れさは強調されますけど、読んでる方は腑に落ちないって言うか…。

 色々な場面の描写がとても上手な方なので読んでる間は目の前の世界以外のことは気にならないのですけどね。読み終えて振り返ってみると何だかなあという気がします。
 ただ、主人公が守るべきものを全て失って復讐を決意する一方でこれまで誰からも無視され続けていた犯人の男が守るべきものを手に入れて、じわじわと変化が起きて気づけば互いの立場が逆転してるという状況はとても面白かった。うまいなあと思います。

 ノベライズも含めた他の作品や最新刊の『1303号室』にも興味はありますが、『復讐執行人』は…何だかすっきりしない読後感でありました。それでも基礎が上手だから一気に読めてしまうのですけれど。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2004.11.18

『ウルトラQ dark fantasy』

『ウルトラQ dark fantasy』 梅津裕一/岩佐まもる/長谷敏司/相坂きいろ

 同名のドラマのノベライズだそうです。
 『らくがき』『ウニトローダの恩返し』『楽園行き』『送り火』の4編収録、短編集。
 ドラマは一度も見たことがないというかその存在自体この本が出るまで知らなかったのですが長谷敏司氏の作品読みたさに購入。長谷敏司氏は『楽園 戦略拠点32098』の作者さんです。

 長谷氏の作品は『楽園行き』(脚本/村井さだゆき)。
 中高年の連続蒸発事件を探る坂本剛一が調査の末に行き着いた先にあったものは…という内容の話なのですが、これがもう、二重三重に嫌な要素が散りばめられていて読んでてたまらなかったです。
 読んですぐ「うわ嫌だ」ってなるグロ描写あり、読後じわじわと効いてくる救いのない展開あり。
 物語を構成するひとつひとつのパーツを思い出すごとに鬱度が増してゆくという…『配達人』の正体とそのほのめかし方が個人的には一番イヤだったかも…。
 すぐに読み終えられる短い作品だったのにあとあとまで引きずってしまう何かをはらんでおりました。

 これ映像で観られたの? なるほど実際に放映された作品だったんだなー。って巽さんが佐野史郎ー!!(愕然)
 …ちょっと観たいかも。近所のTSUTAYAでDVDレンタルしてないかなー。

 梅津裕一氏の『らくがき』(脚本/武井彩)。
 映像で観た場合にはぞわっとくるものがあるかもしれない。文章ではちょっと伝わりにくいかな…。
 それにしても結末がありがち&それなのに意味不明。何かうまくつながってないんだよなあ。

 岩佐まもる氏の『ウニトローダの恩返し』(脚本/上原正三)。
 いやまあうんこういう話ならこれはこれでいいです。色々深く考えるのはやめにします。
 ごめんなさい(謝ったー!)。

 相坂きいろ氏の『送り火』(脚本/太田愛)。
 ヒタキじゃなくてアカメをメインに持って来い!(たったあれだけの出番でもう気に入った…!)
 いい話なんですが文体が私にはちょっと受け付けられない文体だったかもしれません。

 …まあ感想の量の違いを見てもらえばわかる通りの感想を抱いたワケで、トータルで考えるとオススメ! とはあまり言えないって言うか…もともとが長谷氏目当てだったから私はこれでいいんですけどね。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2004.03.27

『白い部屋で月の歌を』

『白い部屋で月の歌を』 朱川湊人 角川ホラー文庫

 二月のはじめぐらいに定価購入したものです。
 なんだろうなあこのせつなさは。

「白い部屋で月の歌を」
 第10回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作。

 語り手は霊能力者シシィ姫羅木(この名前一回ぐらいしか出て来なかったような)のアシスタントを務める、ジュン。
 迷える霊魂を自分の心の中にある『白い部屋』へと受け入れ、シシィの除霊を手助けしている。
 白い部屋に招き入れた少女の生き霊、恵利香の面影にジュンが恋をして…。

 淡々と静かに静かに展開していって何とも言えず哀しいラストシーンへ。
 無駄なく綺麗にまとまった良い作品だと思います。余計なことを書いてないすっきりさ。
 なのに読み終えたときにそこはかとなく嫌な気分になってしまうのは…うーん…何て言うかすごくさみしかった、読後感が。

 それにしても確かに上手だけど賞をとるほどの作品だと素直に思えなかったのはこの後に収録されている『鉄柱(クロガネノミハシラ)』のせいでしょうか。

「鉄柱(クロガネノミハシラ)」
 社内不倫のもつれで東京の本社から地方の営業所に飛ばされてしまった武藤雅彦。
 妻の晶子と越して来た小さな町では出会う誰もが奇妙なくらいに親切にしてくれる。
 独特の雰囲気に戸惑いながらも生活が軌道に乗り始めたある日、雅彦は丘の上の逆L字型の鉄柱で首を吊っている老婆の遺体を発見。
 町の人々は鉄柱のことを「ミハシラ」と呼び、そこは自分の人生に満足した人間が自らの生に自らの手で終止符を打つことが出来る場所なのだと説明する。

 これは深かったです。
 読んでる間中評価が全然定まらなかった、それが怖いことなのか魅力的なことなのか間違ってるのか正しいのか。
 そういう場所があるから人が死ぬのか、あるいはそういう場所があるから人は生きるのか。
 考え始めるとどうにもごちゃごちゃしてくる。

「たとえば、明日は今日より確実に不幸になると知っていれば、今日の満足死を選ぶ気持ちもわかる気がするんです」

『自分でわかってるんです。俺の人生は今が頂点ですよ。もう少ししたら、今の幸せは終わる。きっと、今の幸せはそのまま苦悩の種になります。そしたら俺は、ミハシラを使う資格を永久に失ってしまうんです』

「本当に私、幸せだわ。このまま、時間が止まってしまえばいいのに」

 生き続ければ今よりもっと幸福になることもあるかもしれないけれど、生き続けることで現在の幸福な気持ちが永遠に失われてしまう可能性もある。だとすれば自分が最も幸福だと思えたそのときに自分の人生に自分で幕を降ろすことは、幸福を永遠にしようと願う気持ちには、言下に否定してしまえないものがある。それが自分にとって最良の終わり方だと自身が思えるのなら、自殺することによって自分で自分の人生をハッピーエンドにすることが出来る。

 それにしてもこの方はしみじみラストシーンが上手いなあ…。
 救いがないようでいて希望がある、大石圭氏とある意味よく似ていると思います。
 しかしすごく寡作な方なのかな…?
 去年の11月にこれが出てから新刊とかも出されてないようで…。

 オススメ! と言うよりは読んでみてほしい! って感じでしょうか。「鉄柱」だけでも。短いのですぐに読めます。
 あれこれアタマん中でぐるぐるするようなものを孕んでいると思います。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2004.01.06

『十三番目の人格-ISOLA-』

『十三番目の人格-ISOLA-』 貴志祐介 角川ホラー文庫

 大分前に古本市場で50円で購入しましたシリーズ。
 『黒い家』『天使の囀り』でものすごい世界を垣間見せてくれた貴志氏のデビュー作です。
 第三回日本ホラー小説大賞長編賞佳作、だそうですがそれがどれほどの権威なのかはよくわかりません。

 主人公・賀茂由香里は、他人の強い感情を読み取ることが出来るエンパス。
 その能力を活かして阪神大震災の被害を受けた人々の心のケアをしていた彼女は、入院中の少女・森谷千尋が多重人格者であることに気づく。
 千尋のいくつかの人格の中に凄まじい悪意を秘める危険な人格『イソラ』の存在を感じ取った由香里は、千尋の学校でカウンセリングをしている野村浩子と連絡をとり、自らの特殊能力は秘めたままで千尋と関わりあっていくことになるが…。

 じわりと怖いです。
 読了した直後はちょっとラストあっさりしすぎてるんじゃないかなあとやや不満だったのですが、時間をおくとじわじわ怖くなってくる。すげえ嫌な終わり方です。
 『天使の囀り』があれだけ嫌な話だったのにも関わらず詩的な場面で幕切れしてることを思うと、ちょっと考えられないくらいおぞましいラストを持って来てる…ただ辞書の引用で終わりにしたのは…どうなんだろう、やっぱり引用で終わりにするのは弱いと思うけど。どうなんだろう。

 ということでネタバレ注意。

 『イソラ(磯良-ISOLA-)』は実は千尋が生み出した人格ではなく、体外離脱実験の最中に震災で自分の肉体を失った女性・高野弥生が千尋に寄生した結果誕生した存在だったのですが。
 弥生転じて磯良は千尋を虐待していた男や千尋をいじめていた教師・生徒の何人かを人間には真似の出来ないやり方で殺害した後で、実験中に自分を見捨てて逃げた真部(…名前?)に復讐しようとする。
 バスの中で偶然出会った真部と恋に落ちた由香里は彼を守るために磯良と対決する決意を固める。
 日が落ちて磯良が千尋の身体から抜け出す前に千尋の身柄を確保して磯良が千尋の身体から抜け出せなくなるような薬を注射しなければならない、ということで行方不明になった千尋を探し求める由香里と真部。
 生命が危機にさらされている逃避行の最中なのにホテルの一室で愛を深め合ってしまう二人にはちょっと苦笑しましたが…(守られてる男の方が襲うな!)(しかも結局未遂)。
 最終的に弥生の肉体が死亡した建物の屋上で千尋を発見し磯良と対峙した真部は、自分の身体の中に磯良を取り込んでから飛び降りることで一連の事件に対する決着をつける。まあこうするしかないだろうなという結末ではありました。

 これで終わりだったら上手く出来てはいるけど何か物足りないハナシだなぁと思ってたんですが、やはり当然これだけでは終わらず。
 後日、由香里は磯良の支配下から逃れた千尋を見舞う。千尋は事件直後200以上もの人格に分裂していたが、その後適切な治療のおかげで人格の統合がどんどん進み、現在では元からいた12の人格と統合を助けるために出現したと思える『十三番目の人格』憧子(しょうこ)が存在するのみになっていて。
 まだ完治したわけではないけれど安定してきている千尋の様子を目にして、安堵して帰りかける由香里…背中を向けた途端あふれ出して来た強い感情を受け止めた由香里は、千尋が磯良に致命的な影響を与えられていたことを知る。
 体内から抜け出し他人に寄生して自分に害を与える者を始末していた磯良。
 磯良のすることを見ていた他の人格達は自分の身を守るためには何者を処分しても良いのだという考えに『全員が』感染し。
 『磯良と同じこと』をするための『十三番目の人格』を生み出した。
 『憧子』という名前の本当の意味を他ならぬ自分が以前に贈った書物の中に発見した由香里は、事件が終わってなどいなかったことに気づき愕然となる…。

 噛み締めれば噛み締めるほどぞくりとおぞましいエンディングでした…。

| | Comments (0) | TrackBack (1)

2004.01.02

『同窓生』

『同窓生』 新津きよみ 角川ホラー文庫

 ずっと前に古本市場で50円で購入したもの。

 主人公、鳥居史子は十四年ぶりに大学時代の友人達数人が集まった席で、『鈴木友子』の話を聞かされる。
 学生時代の史子と一番親しかったという『鈴木友子』。
 友人達の誰もが知っている彼女のことを、一番の親友だったはずの自分が全く覚えていないのは何故なのか…?

 何だろうこの読後感の強引過ぎるくらいの爽やかさは…。
 ネタバレしますよ気をつけて。

 もうハッキリ言っちゃうと『鈴木友子』ってのは『同窓会』に集まったメンバーが史子を陥れるためにつくりあげた架空の人物なのです。史子が覚えていなくても無理はない。そもそも『鈴木友子』なんて人間は存在しなかったのだから。学生時代から高慢で自分勝手だった中園由希子に命じられて他の皆は口裏を合わせているのです。由希子には史子に対してそんな陰湿な方法で『復讐』したい何かがあるらしく。
 ところが、『同窓会』が終わってすぐに、メンバーの一人浜崎香の家に『鈴木友子』から電話がかかってくる。呼び出されるまま『鈴木友子』と対面した香は、そこで自分達がつくりあげたのと全く同じ容姿をもった女性と出会って…。

 それなりに盛り上がる話なんですが由希子の動機が弱い。弱すぎる。というかよくわからない。
 史子が彼女の会社のHPに掲載したエッセイに書かれているエピソードが、自分が学生時代に語った思い出話と酷似していたことから、由希子は史子が自分の話を勝手に流用して大勢の人の目に触れる場所に出したことについて、怒ってるらしいんですが…どうもよくわからん。
 当の史子は物語後半で由希子がそんな話をしてるのを聞いたことなんてないって断言してるし…それに答えて『鈴木友子』は「そういうこともあるかもね」みたいな感じで軽く聞き流してて、由希子の動機が話の中心になりそうなものなのに全く追及されてない…。
 由希子はエッセイのことにこだわってるらしいんです。らしいんですけどね。それはわかるんですけどね。
 彼女はあっと言う間に車で事故って入院して錯乱してしまうので結局細かい事情がわからんのですよ。何でそんなにあっさり由希子を退場させてしまうのかワケがわからん。香やみちるはともかく敬子はいらんから由希子を掘り下げるべきではないのかと、前作品(『招待客』)と同じような苛立ちを覚えてしまいました。ううむ…。

 結局作者さんの語り方と私の読み方が合わないんじゃないかなあと言う気がしてこなくもないです。
 50円で買ったシリーズはこれで終わりなので…まあまたどこかで見かけたら他のも読むかもしれませんが。
 決して面白くなかったり不愉快だったりはしないのが微妙なところなんだよね…。

 ラストはもうあからさまに一定の方向に話を持って行こうとしてるのが見え透いてて微笑ましくさえありました。そういう流れの中に読者を引き込むのはどうなんだろう。流れの中に入れてしまえばそれでいいのか…いいんだろうか…いいということにしておくか…?

 たまにはトラックバックも使ってみます。
 以前書いた『招待客』の感想文に。
 興味のある向きはお読み下さいな~。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2003.12.14

『招待客』

『招待客』 新津きよみ 角川ホラー文庫

 大分前に古本市場で50円で買った本です。

 主人公、高谷美由紀には幼い頃川で溺れたところを通りすがりの男子高校生に助けられたという過去がある。それを知った友人達は美由紀の結婚披露パーティに「命の恩人」を招待するようすすめる。当時の新聞記事を頼りに恩人・井口貴明の住所を探し出し、招待状を送った美由紀だったが、かつての「恩人」はひそかに豹変していた───。

 あ、裏表紙の文句そのまま写してすいません。
 大体こういうハナシでしたが微妙にこういうハナシじゃなかったです。
 以下ネタバレあり感想につき未読の方はご注意下さい。

 あっさり読めてしまいました。綺麗に上手にまとまってる話だとは思いましたがあんまりというか全然怖くない。貴明の母親の井口富士子がイッちゃってるヒトなワケですがそれにしたって嫌ぁな感じがあるだけで別にどうってことないしな…期待し過ぎなのかなあ。

 とりあえず「三森佳世子は何なんだ」と激しく強く突っ込みたい気分でいっぱいです。序盤から中盤にかけてさんざん意味深な描写を続けて霊感があるだの直感が鋭いだの何だの言うといてさてはコイツが富士子と対決するのかと思いきやあっさり殴られて死んでしまいました。何なんだお前は…? いなくていいんじゃないか別に…?

 それよりも大澤拓也(初登場のときは『哲也』って名前なんですけど…)と美由紀とのつながりをもっと深く強く掘り下げた方が悲劇的になったんじゃあ…。
 結婚披露パーティの直後からたちまちぎくしゃくし出してそのまんま拓也が殺されちゃって、結婚までしといて何なんだこのカップルは? って感じになっちゃったし…美由紀が拓也のことをこう思ってたとか実は拓也の心境はこうでとか一応説明は入るんだが言い訳にしか聞こえんなー…結局美由紀は拓也自身よりも彼の経済力に重きを置いてたみたいな印象が最後まで拭えないし。
 拓也と美由紀の関係が弱いから駄目押しに佳世子を持って来て二人とも死なせた、みたいにとれて嫌。佳世子の役目はそれだけっぽくて。だったら最初の方に出て来た友人二人も巻き込んで殺しちゃった方が異常さが際立ってよかったんじゃないかな…?

 結局この物語は野崎博信一人勝ちということで。どうも最後の最後で美由紀とくっつくっぽい。さすが捜査一課の刑事さんだわ。結構年の差。加えて野崎さんかなり純真(ちょっと思い込み激しいけど)。
 美由紀もきっとあっさり野崎さんに鞍替えするに違いないよ! 何たって彼はもう一人の『恩人』なワケだしな! 拓也のことなんかたちまち忘れてそうなイイ性格してるし!
 つまり美由紀も『勝ち組』ってことで拓也と佳世子が気の毒でならないよ…だって二人とも別に死ななくてもいいじゃん…特に佳世子なんか死ぬ意味がわからん。

 面白くないワケじゃないけど納得出来ない作品でした…。

| | Comments (0) | TrackBack (0)