『ドラゴンズ・ウィル』
『ドラゴンズ・ウィル』 榊一郎 富士見ファンタジア文庫
「魔竜スピノザ! お前を、倒すっ!」
………べしゃ。
次の瞬間、自称『勇者の代理人』の少女は、見事にすっ転んでいた───。
エチカ・ライプニッツは明るく元気な少女。聖<デルフォイ>の森に、スピノザという魔竜が棲むという噂を信じ、退治しにやって来た。
街の人々は、誰もそんな噂を信じていない。馬鹿にされながらも、エチカは森の奥にある洞窟で、人類の天敵、魔竜スピノザを発見した!
ところが邪悪な敵であるはずのスピノザは、香茶を愛す菜食主義の竜だった!?
第九回ファンタジア長編小説大賞準入選受賞作! 元気な少女と風変わりな竜とのふれあいを描いた、心温まるロマンティック・ファンタジー登場!!
かなり長らくひろ嬢からお借りしたままになっておりました本です。読み終わりました。何でもっと早く読んでなかったんだ私の馬鹿ッ!(自分に平手打ち)
絶対最強生物であるところのドラゴンとまっすぐな性格の少女との淡い恋の物語です。軽い調子の導入部分から一転して『運命』や『役割』についての深いところを描き出す展開となり最後は堂々の…ま、ハッピーエンドでは、ありませんでしたけどね。そこがちと残念であり同時にだからこそそこが良いのかも。
魔獣王であることを拒む竜、英雄であることを拒む勇者、自分に与えられた役割を拒否しあがく人々、自分の役割を自分で掴み取ろうとする主人公、エチカ。
敵役についてのエピソードがもう少し欲しかったような気もしますが、全体的に隙なく構築されている世界は読んでて心地よくすっと入り込めました。かちっとした印象の文章の運びもデビュー作にして既に完成されてる印象で実に気持ち良い。
「生まれ変わりってのがあるなら、次は人間がいいな……って思ってたもんだからさ」
「そうなの?」
「うん」
「不便よ、人間は」
エチカは溜め息をつく。
「空も飛べないし、竜に比べればひ弱だし」
「でも楽しそうだよ」
「そうかなー……私だったら、竜がいいな」
「邪悪な?」
笑いながらスピノザが言う。
「んー……」
エチカは人差し指を頬に当てて首を傾げた。
「訂正……スピノザみたいな、竜」
「…………」
スピノザは何やら、落ち着かない様子で翼を少し開いたり畳んだりした。照れているのだとエチカが気づいたかどうか。
「じゃあ……僕ももう一回、竜をするかな」
あああもうスピノザかーわーいいーよー!
カッコ良いのは、アタラクシア。
良い物語を読ませていただきました。
最後の一行が痺れるほど、好きなのです。
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